オーストラリア・クイーンズランド州への日本人レンジャー派遣(2007年7月~12月)

2006年、日本エコツーリズム協会とオーストラリア・クイーンズランド州政府との共同プロジェクトとして、クイーンズランド州の国立公園での日本人レンジャーを募集しました。 その結果採用された、原智宏さん、村上正剛さんのふたりが、2007年7月から12月まで現地でレンジャーとして活動しました。 ホームページでは、彼らから毎月送られてきたレポートと写真を掲載しています。

原智宏さん

6ヶ月を振り返る

 ケアンズでのツーリズムレンジャーの業務はこの6ヶ月目で終わりです。短いながらにも目標としていた活動や報告、ならびに許可証関連業務上のサポートや業界の方々とのやりとりなど、様々なことをすることができました。今回はこの6ヶ月を振り返りながら、私が見るところからの今後の課題や展望などについて簡単に述べていきます。

オーストラリアの国立公園とは

 オーストラリアの国立公園の管理はとてもユニークに思えました。私は以前アメリカの国立公園の仕組みや運営について勉強してきたことからも、ある「国立公園像」の様なものを持っていました。例えば、レンジャーがいて、公園内を見回りながらも、案内するプログラムや動植物などの公園資源を守る。しかし、クイーンズランド州で観てきたものは、「禁止ではなくて警告」であったり、「ガイドは民間に託し、ツーリズムの入る余地を作る(観光業の発展のため)」である一方で「厳しい管理と許可証制度」であったり。かつてアメリカから輸入された「国立公園」の仕組みも、オーストラリアらしい色があるのだと気がつきました。またそれが州によって違うところも面白いところです。その中でもクイーンズランド州の管理局QPWSはツーリズム業界との連携の試みを始めています。  ただ、わずか100数十年の昔に開拓され、なくなってしまった大自然やアボリジニの文化のことを考えると、「やってしまった」のだな、とつくづく思います。そのわずかに残った世界遺産に認定された場所やアボリジニ自治区を大切に守って行かなければいけないのは、管理局であり、ツーリズムであり、オーストラリアの人々なのだと感じました。また、「観光客もその一部になり得ることも確認できました。  

ケアンズの日系観光とは  

 日本人の方々が年中数多く訪れる渡航先として有名なケアンズの観光形態は、観光が地域を支えている、ということを思い知らされます。かつてサトウキビ栽培や内陸の鉱山の為にわずかに開発されていたケアンズも、日系旅行業の影響による開発で、オーストラリア内でも2番目に観光客が訪れる街になりました。今では様々な影響で日本人観光客の数が減る一方、欧米や他のアジア圏の観光客の増加に伴い、ツーリズム都市の威力を発揮しています。  日系観光業界には近年の観光客の減少傾向で緊張感が漂っています。それは今まで伸び続けた観光業がやっと面した改善の時期と見ている人も多く、その中でガイドの質の向上や国立公園や世界遺産についてもっと勉強することなど、将来の回復の見込みも見えてます。もちろんその中には、リピーターを増やす努力をしている人たちもいます。  

国立公園管理と観光促進の恊働の試み  

 今回の日本人レンジャー派遣プログラムも「政府が民間への歩み寄り」の一環として効果があります。クイーンズランド州政府はその財政の多くが観光業に依存していること、ならびに州内の大自然に依存していることから、観光を如何に利用のみならず、保全活動にも活かして行けるかという試みから、エコツーリズム戦略に則りかなりアクティブに動いています。国立公園が観光促進の手助けをしながらも、観光業界が大自然の利用方法をきちんと守るという、相互の助け合いにより、ポジティブな発展が期待されます。  

期待すること  

 この6ヶ月の任期終了につき、この後どうなるのかという疑問を観光業界の方々からも頂きました。この6ヶ月の成果(ネットワーキング、許可証関係の各種サポート、ガイドや顧客管理に関するアドバイスなど)はかなり評価していただきました。また、QPWSにとっても日本人レンジャーの役割について確認することができたということで、今後の継続の可能性についても予定しているようです。  

大事なことは、システムの中に組み込み、継続することでしょう。今回の活動の中では、初めての試みとして構築してきたノウハウやネットワーキングがあります。それがどう活かされるかが本当の成果になって来ると思います。  

最後に、今回のプロジェクトでお世話になりましたケアンズの観光業界の方々、ガイドの方々、JES事務局の方々、QPWSの方々に感謝します。また、このプログラムに興味を持っていただいた方々やオーストラリアの魅力を知りたい方々に、学んだことや気づいたことを伝えて行く機会を作って行って、今後もお役に立てたらと思っています。

村上正剛さん

レンジャーの仕事

 オーストラリアのレンジャーとしての最後のレポートとして、今回は、こちらのレンジャーが取り組んでいる国立公園を管理していく上で最も重要な4つの課題について報告します。

 まず、一つ目は、山火事です。山火事は、自然現象ですから、人間の手で完全に制御することは不可能ですが、それでも、ある程度コントロールできるよう、レンジャーが、定期的に山焼きを行なっています。こうすることで、山火事が発生しても、それが、大火になることを防いでいます。山焼きは、その頻度、時期、範囲、火の強さなどをあらかじめ注意深く計画して行なっています。例えば、虫が越冬している時期や鳥の繁殖期は避けるようにしています。また、ユーカリの森では比較的頻繁に(3?6年に一度)山焼きをおこなう一方、多雨林地域では、特に行ないません。山焼きは、大火を防ぐ以外にも、土壌の栄養分を高めたり、植物の成長を促進したりする効果があると考えられています。こちらの植物の中には、山火事が発芽の条件になっているものもあります。

 2つ目の課題は、外来(移入)動物です。こちらの野生生物にとって最も脅威となる移入動物は、野生化した猫です。クィーンズランド州では、約150万匹の野生化した猫がいると言われています。そして、全国で約380万匹の野生動物が、猫によって殺されています。また、野生化した豚もオーストラリアでは大きな問題になっています。これらの駆除もレンジャーの重要な仕事です。

 3つ目は、雑草です。ここでいう雑草とは、外来の植物でオーストラリアで繁殖してしまっている植物のことです。この雑草の悪影響としては、もともとオーストラリアにあった植物の生きる環境を奪ったり、その毒性により人や動物に害を与えたり、また、山火事を起こしやすくしたりすることが挙げられます。このような雑草を、生態系への悪影響の大きさや潜在的な脅威の大きさ等を分析した上で、計画的に取り除いています。取り除く方法としては、農薬を使う場合もありますし、手や機械で刈ることもあります。

  最後に、訪問者の管理も大きな課題です。私のオフィスのあるデイジーヒル保全公園では、広場にバーベキューセットが置いてあり、公園内での犬の散歩やサイクリング、乗馬も許されています。そのため、週末やスクールホリデーには多くの方が訪れます。その中で、問題となっているのが、訪問者が、野生動物に食べ物を与えたり、ゴミを放置したり、木に落書きをしたりすることです。レンジャーは、そのような行為を取り締まる一方、公園内外での様々なアクティビティを通して、地元の方に自然の楽しさと大切さを知ってもらおうとしています。特に地元の子供を対象としたアクティビティは頻繁に行なわれ、そこには、彼らに、将来、地元の自然のサポーターになってもらいたいという意図があります。

  6ヶ月のオーストラリアでのパークレンジャー生活は、本当にあっという間でした。夢のような時間の中で、とても多くのことを学んだように思います。