全国エコツーリズム大会 in岩手にのへ
~みちのくの原風景に生きる知恵をみる~
奥南部の雑穀文化とエコツーリズム
開催概要
【開催期間】2011年10月21日(金)~23日(日)
【場 所】 岩手県二戸市
【主会場】 二戸市民文化会館
【内 容】 1日目シンポジウム・交流会、2日目エコツアー、3日目報告会
【主 催】 全国エコツーリズム大会in岩手にのへ実行委員会
【共 催】 二戸市、NPO法人日本エコツーリズム協会
【パンフレット】PDF
開催報告
10月21日から23日の三日間をかけて岩手県二戸市で「全国エコツーリズム大会in岩手にのへ」を開催しました。初日のシンポジウムへは、各地から約1100人もの方々にご参加いただき、夜は、二戸市の若手料理人の会、おいしい雑穀料理伝え隊による交流会が行われ、およそ400人の方々が逸品料理に舌鼓をしながら交流を深めました。
大会二日目は、市内5コースと被災地を訪れるエコツアーが行われ、約250人の方々が参加されました。そして三日目の最終日には、各エコツアーからの体験報告と、大会を締めくくる総括セッションが行われ、最後に大会実行委員会長である小原氏より大会宣言が発表され、閉幕しました。
基調講演「自然の恵みと森づくり」
C.W.ニコル氏(環境保護活動家)
1962年、22歳の時に幻の格闘技空手をやるために初めて日本に来ました。日本の自然は美しい。森には熊も猪も鹿も、そして狸という不思議なものもいる。故郷では絶滅してしまった生き物たちが日本にはいました。そして日本人の独特の自然と人とのバランスを習いたいと思い、40歳になって長野県黒姫に移住しました。
日本は面積の67%が森林ですが、原生林はその3%くらいしかない。原生林にはまだ未発見の小さな生き物がいると思う。残さなきゃいけない、守らなくちゃいけないんです。私は大好きな日本で何ができるか考え、小さくても、良い森を作ると決めました。そして30年前に黒姫の小さな森を買った。その森は人の手が入らず薮になってしまい生き物もいない暗い森でした。そこをアファンの森と名付け、猟友会の仲間と一緒に間伐して光や風が通るようにし、ブナやトチノキを植え、小川を通しました。愛情を注ぐと森は応えてくれます。花や昆虫、小鳥、熊が戻ってきた。日本は森にもっと人が入るようになれば世界一豊かな国になります。
豊かな森は人を癒してくれる。アファンの森では、心のプロジェクトとして震災にあった家族を受け入れています。美しい自然、美味しい物、良い空気、良い水があると人の顔が明るいんです。二戸にも鮭がくる川があり、雑木林がある。地元の自然が豊かになれば、可愛い明るい子どもが育つ。そして結果お客さんがくる、観光が良くなる。そうすると日本の未来は明るいよ。私は日本の国籍をとって、とても誇りに思っています。
問題提起「エコツーリズムと地域づくり―実践的課題(着地型観光の開発に向けて)」
田川博己氏(株式会社ジェイティービー代表取締役、JES副会長)
国内人口の減少や消費ニーズの多様化など様々な変化が観光業界を取り巻いています。一方で地域社会においても過疎化や後継者不足、空き店舗の増加など、様々な課題を抱えています。今回の大震災により、厳しさは増していますが、旅には、地域が抱えている課題を解決する力があり、ひいては日本の再生につながると確信しています。そのためには、農林漁業、製造業、商業など、全ての機能が観光に参画することが重要であり、揃った上で観光まちづくりに向けた次のステップが可能となります。
エコツーリズムとは「旅行者に魅力的な地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていくこと」であり、地域の伝統文化を生かしたまちづくりにおいて重要な位置を占めています。エコツーリズムの考えを具現化したエコツアーにおいては、地域の宝のストーリーを大切にしていただきたい。
地域の宝を生かしたエコツアーは着地型観光の商品であり、その実践的な課題としては、一度きりで終わってしまうのではなく継続的・持続的に行っていく体制をつくることが挙げられます。実際には、なかなか永続的に本気で動く組織が無いのが現状です。また、着地型観光のマーケットを育てていく努力が必要であり、エコツーリズムは新しいマーケットを作り出すための基礎としての動きだと信じています。
パネルディスカッション
「千年の誇りと思いをつなぐ奥南部の雑穀文化とエコツーリズム」というテーマで、フリーアナウンサーの樋田由美子氏をモデレータに4人のパネリストにご登壇いただきました。
民俗研究家の結城登美雄氏からは、雑穀は厳しい土地で生きていくためには必要欠くべからざる物であり、女性たちによるおいしく頂くための創意工夫の歴史が、いま私たちが受け継いでいる雑穀文化であるというお話に端を発し、東北の食の駅構想として、作り手と消費者が出会い、食に対する理解を深める場を作るアイディアが投げかけられました。
南部せんべいの製造販売をしている株式会社小松製菓常務取締役の小松友枝氏からは、自分たちの技術を磨き、南部せんべいを地域の宝にすることで観光に貢献し、地域になくてはならない企業でありたい。岩手県洋野町の種市ふるさと物産館代表の庭静子氏は、特産であるホヤの商品開発をし、ネット販売で全国に展開してきたが、震災で物産館が流されてしまい、小さな店舗で営業を行っている。震災は不幸だが、転機に変えていかなければならないと、ご自身の取り組みについて語っていただきました。
株式会社ジェイティービー地域交流ビジネス統括部長の加藤誠氏からは、雑穀文化がエコツーリズムの核となり地域外の人の意識を捉えるためには、ストーリー化が必要であり、ストーリー化による発信は、作り手と消費者の融合を導く。食べる力がマーケットとするなら作る力が地域、それをつなぐのが旅の力であると、エコツーリズムの可能性についてお話いただきました。
大会2日目 エコツアー報告
エコツアーに参加したJES学生部会からの報告をもとにご紹介します。
◎1 天台寺に続く道 御山道を歩く(足沢地区)
東北仏教文化の中心地として歴史を刻む天台寺を訪ね、足沢地区では日本でも珍しいもちひえを使った雑穀料理をいただきました。私が何よりも「良いな!」と思ったのは足沢の皆さんの笑顔です。帰り際は寂しくなってしまう程でした。
◎2 小説『天を衝く』の舞台九戸城と天ヶ塚伝説を訪ねる(坂本地区)
ガイドさんの案内で九戸城跡を訪れ、天ヶ塚へ向けて登り、温かい山里のかっちゃん料理をいただきました。豆腐作りや脱穀方法などを教えてもらい、貴重な体験になりました。
◎3 奥州街道を歩く(金田一地区)
奥州街道の難所の一つ蓑ヶ坂を目指しながら滝や紅葉を楽しみ、金田一地区ではリンゴの収穫や座敷童がいるという亀麻呂神社を訪れました。印象に残ったのは「おもてなしの心」、地域の方の協力があってこそエコツーリズムがある事を実感しました。
◎4 北東北 ブナの原生林が広がる稲庭高原を人と歩く(杉沢太田地区)
稲庭岳の山頂を目指し、頂上では民謡のサプライズ野外ライブがあり、みんな大感激! 下山後、短角牛や新そばなど山の恵みを堪能しました。民謡や地元の方との交流、郷土料理の数々は二戸を大好きに、そして忘れられない思い出になりました。
◎5 浄門の里で晩秋を楽しむ庭じまい(門崎地区)
門崎集落で五右衛門風呂沸かしや、餅つきなど、むらの暮らしを体験。生漆生産日本一の地で作られた浄法寺漆器で郷土料理を味わいました。門崎に行けば、みんな家族!という雰囲気で皆が役割を持ち、生き生きと暮らしている姿が印象的でした。
◎6 先人のたくましい足跡 野田塩ベコの道を訪ねる!(被災地応援)(野田村)
ツアーでは、海水を煮詰める塩作りを体験し、内陸へ塩を運び、山の食べ物と交換した塩の道をトレッキングしました。まさに手塩にかける塩作り!出来立ての塩は甘くてまろやか。自分達の作った塩に愛着がわいてしまいました。
大会3日目
◎総括セッション
大会の総括として、東北におけるエコツーリズムの将来、我々は何を伝えていくべきなのか、文教大学准教授、JES理事の海津ゆりえ氏をコーディネーターに3人のコメンテーターから意見をいただきました。
本大会実行委員会長の小原豊明氏からは、発見した宝を様々な場面で共有し、位置づけを高めていくことが多くの市民の関心や指示を得ることにつながり、今大会はこれまでの活動に対する評価であり、その評価をもとに改めてこれからの課題に対して取り組んでいきたい
京都嵯峨芸術大学教授、JES理事の真板昭夫氏からは、東北の人の誇りとは厳しい自然との闘いの中で生き抜いていく知恵であり、この生きる知恵を他地域の人に見せる(誇る)事がエコツーリズムの原点である。
プロマークジャパン代表、JES理事の小林寛子氏からは、自分達の地域を良くしたいと思う運動そのものが素晴らしい資源になり、観光客に感動を与える、インターネットを活用し、一人ひとりが何かを発信すれば生きた情報となり、全国だけでなく世界に向かって発信する事ができる、ぜひ東北というブランドを二戸から発信していただきたいと、総括していただきました。
◎奥南部の絆と宝を大切に
二戸市長 小保内敏幸氏
全国エコツーリズム大会がエコツーリズム協会様をはじめ関係団体のご支援、ご協力と、たくさんの方からご参加いただき、盛会に終了することができました。心から感謝とお礼を申し上げます。
東日本大震災津波による大きな被害に遭われた岩手県沿岸地域から「災害復興につながる大会にしてほしい」との要望があり、沿岸へのツアーや海の郷土料理などを取り入れ、奥南部(岩手県北から青森県南地域)の海・里・山の自然、歴史、生活、食などを生かした大会として開催させていただきました。
奥南部では、古くから海からの塩や魚などと、山里の雑穀などの産物を交換し、互いに支えあって生きてきました。
これからも奥南部の絆を大切にして、宝を「探し、磨き、誇り、伝え、興す」ことを基本に、本大会で学んだことを生かし、宝を生かしたまちづくりと東日本大震災からの復興に取り組んで参ります。そして、魅力あるエコツーリズムを発信して参りますので、今後とも皆様のご指導、ご協力をお願い申し上げます。