全国エコツーリズム大会 inてしかが
エコツーリズムによる地域づくり
~てしかがスタイルのエコツーリズムとは~
開催概要
【開催期間】2012年10月15日(月)~17日(水)
【場 所】 北海道弟子屈町
【主会場】 川湯観光ホテル
【内 容】 1日目シンポジウム・交流会、2日目エクスカーション、3日目分科会
【主 催】 てしかがえこまち推進協議会
【共 催】 NPO法人日本エコツーリズム協会
【パンフレット】PDF
開催報告
10月15日から17日までの3日間、北海道弟子屈町で「全国エコツーリズム大会inてしかが」を開催しました。初日は約150人の方に小さな町のエコツーリズム振興のキックオフにお集まりいただきました。夜の交流会では飲食店が連携し、地元産品で調理された自慢の逸品料理が提供され、参加した皆さんは舌鼓を打ちながら交流を深めました。
二日目は、町内で販売されているエコツアーが行われ、およそ270人の方がツアーを体験しました。また、夜にはC.W.二コルさんの特別講演が行われ、地元の方々も参加しました。
三日目はエコツアーの評価報告と、各種分科会が行われ、弟子屈町で直面している課題について話しあい、閉会を迎えました。
基調講演「観光地域づくりとエコツーリズム」
田川博己(株式会社ジェイティービー代表取締役、JES副会長)
これからの観光のキーワードとしては「サステイナブルツーリズム」、「五感」、「モノ消費から経験消費へ」の三つがあると考えています。
特に三つ目の「モノ消費から経験消費へ」を弟子屈町の皆さんにご提案したい。これまでの消費型の旅行のように自然環境や文化財などを含むモノを消費するのではなく、将来世代にわたって多くの人に楽しんでもらえるように持続可能なツーリズムを目指し、地域の個性豊かな資源をベースとした様々な経験を提供することで、地域のブランドを作っていただきたい。エコツーリズムはまさに「地域ブランド」を作り上げるためのプロセスなのです。そのためにはまず、住んでいる方々がその気になることが重要です。
旅には5つの力があるとお話をしています。一つは「文化の力」、見知らぬ人に訪れてもらうためには、元々ある地域の文化をより魅力的に発信していくことが必要です。それは文化をより高めていくことにつながります。そして「交流の力」、訪れた人との交流を通してお互いの理解が深まります。これは最も重要な力であり、これさえあれば世界の平和が作り上げられると考えています。
それから雇用などの「経済の力」。そして「教育の力」、まだまだ本当の日本の姿を知っている人は少ないと感じています。もっと日本の自然や、農業などの第一次産業とそれらと共にある暮らしを旅を通して知ることで、日本の魅力の再発見につなげる教育的観点も必要です。最後は「健康の力」です。旅は精神的にも肉体的にも人を豊かにします。
エコツーリズムは、これらの旅の力を総動員する必要があります。地域の本当の価値を伝える重要な手段として地域ブランドづくりにつながるように多くの皆さんのご協力をお願いします。
トークセッション「てしかがスタイルのエコツーリズムって?」
「てしかがスタイルのエコツーリズムって?」をテーマに、北海道大学観光学高等研究センター長、同教授、JES理事の石森秀三氏をファシリテーターに4人のパネリストによるトークセッションを行いました。
てしかがえこまち推進協議会会長、弟子屈町長の徳永哲雄氏からは、摩周湖・屈斜路湖・硫黄山・釧路川などの自然資源を生かしながら、地域の農業や林業の関わりの中でどう観光を再構築するかが課題だが、てしかがえこまち推進協議会を中心に、わが町を誇れるような地域づくりをしていくことが一番大事だと思う。観光は、今日やったことが明日すぐお金になるものではなく、蒔いた種を育てる活動を継続してやりとげることが大切と、目的達成のための継続的な努力の重要性が挙げられました。
てしかがえこまち推進協議会エコツーリズム推進部会の冨田恵氏からは、地域の皆がつながり、仲良くなる仕組みやきっかけづくりが大切で協議会はまさにそのための場であり、色々な人の知恵が合わさることで初めて新しい弟子屈町のツーリズムが生まれると、更に仲間を増やしていく意気込みが語られました。
三重県鳥羽市でエコツアー事業を展開している有限会社オズ海島遊民くらぶ代表、JES理事の江崎貴久氏は、エコツーリズムによる地域づくりにおいて大切なのは連携であり、好き嫌いで気を遣うような雰囲気を作らないことが重要。女性は喧嘩しても2、3日で仲直りできるが、男性は難しい。そうしたことは組織に影響を及ぼし、町の中の循環を悪くしてしまう。そうならないような雰囲気づくりと、皆が共感できる目的を明確にすることが重要と、実践の経験を踏まえアドバイスを行いました。
スイスのツェルマットで日本人向けのガイド事業や、観光カリスマとして日本国内の観光による地域興しに取り組んでいるJTIC.SWISS代表、JES理事の山田桂一郎氏は、地域に誇りを持つことを基本とし、地域が100年循環するための仕組みを作ることが必要で、弟子屈町の取り組みで評価できる点は、色々な人が関わりながら考えるだけではなく行動している事だと激励しました。
特別講演「美しい日本の森から未来を考える」
C.W.ニコル氏(環境保護活動家)
北海道に来ると空気が良く、景色が素晴らしく、食べものが本当に美味しい。どうして北海道に住まなかったのかと毎回思っています。
第一次産業が健康なところはエコツーリズムが成功していると思います。農業や林業では元気な人がたくさん働いている。日本はこんなに良いところなのに毎年3万人もの人が自殺をしているのは何故なのでしょう。
東日本大震災で被災された方を長野県黒姫の私たちのフィールドである「アファンの森」へ招きました。森を見せることで「未来が見えた、手伝ってくれ」と言われ、宮城県東松島市で「森の学校」づくりをお手伝いしています。津波で流されてしまった学校を高台に移転するのですが、移転する先は利用されなくなった暗い森なのです。アファンの森も以前はそうでした。密集しすぎた森に手を入れることで明るい、生き物の多様な森に甦らせ、その森の中に小さな校舎が点在する学校づくりを進めています。
私たちに何が出来るのか、この震災から日本人は何を学ぶのでしょうか。心のケアという意味からも、自然や風景を壊さないで欲しい。東北が自然を大事にすれば必ず立ち直れます。私は50年前に日本へ来ましたが、学校づくりのご縁をいただき、やっとなぜ日本に来たのかが分かりました。日本は言論、宗教の自由があり、独立しているので、これほど良い国はありません。日本人が皆で努力したからこそ、この列島はアジアで1番になりました。日本には美しい森や海があります。僕は日本国籍を取得した事を本当に誇りに思っている。
分科会1.自立した地域経済のデザイン
ファシリテーター:高峰 博保(株式会社ぶなの森代表取締役、JES理事)
地域経済をつくる一番のポイントは、連携、循環、つながりです。地域内における関係性を立体的に描いていくと案外近いところにお互い居ることがわかります。地域で活躍している人だけでなく皆が関わる事が重要です。まずは自分たちがプログラムを体験して紹介できるようにし、それによってお客さんが増え、リピーターにもつながります。また連泊も増えるのでその宿泊プランの作成なども行っていくことが大事です。
分科会2.地域資源の保全と活用
ファシリテーター:松田 光輝(知床ネイチャーオフィス代表取締役、JES理事)
屈斜路湖は一時期、魚がいなくなるほど水質が悪化した時期がありましたが、現在は回復しています。しかし今後はわかりません。保全と利用の両立を図るための対策は簡単に答えがでるものではありませんが、モニタリングを継続していくことが大切です。定点観測を行い、継続して写真を集めることによって、どう環境が変化したのかが分かります。問題があれば柔軟に利用のあり方を変えていくようにする。このようなモニタリングであれば住民や観光客の方にも参画してもらえます。多くの人が参画できる形を作り、一人一人が発言していくことも大切です。
分科会3.地域課題解決ビジネスの創出
ファシリテーター:楠部 真也(株式会社ピッキオ取締役、JES理事)
どうやって事業としてエコツアーをやっていくか、まず一つ目のキーワードは情報の扱いでした。いかに弟子屈町の魅力的な資源を発信し、共有するか。自分たちがツアーを知らないと売れるものも売れません。売れないがために保険代だけという安価でツアーを体験してもらっているという現状があります。弟子屈は知床よりもアクセスルートがたくさんあり、リピーターも獲得し易い。観光関係者だけでなく、地域の方一人一人にも弟子屈の魅力を発信してほしい。
分科会4.ユニバーサルデザインと観光地域づくり
ファシリテーター:石森 秀三(北海道大学観光学高等研究センター長、同教授、JES理事)
誰しも旅をする権利を持つなかでバリアフリーを必要とする人ほど自然豊かな場所を求めています。しかし現実はバリアフルな国です。宿泊施設にも改善を求めていますが、経営的に厳しいのが現状です。それをおもてなし等のソフト面でより良くできると考えています。川湯の温泉地はかつて歓楽型の観光地でしたが、今は療養型で誰もが心身ともに癒される形に変わってきました。
ただ飛行機のバリアフリー対応は完璧ですが、飛行場を出た二次交通面でユニバーサルデザインの対応ができていない現状があります。交通パスなど現在も行われている取り組みがありますが、もっと広げていくことが重要です。トラベルヘルパー(外出支援専門員)や入浴ヘルパーなど資格制度がまだ確立しておらず、コストもかかりビジネスとして難しいが、若い人にどんどん業を起こしてもらいたい。